【歌詞考察】歌・米津玄師『KICK BACK』の言葉

【歌詞考察】歌・米津玄師『KICK BACK』の言葉

「共感」といえば、悲しいことや傷つくことに対するものというイメージが一般的だろう。一方で「憤怒」や「焦燥感」への同調されることはあまり期待できないと思う。しかしそんなダメ元の期待に米津玄師『KICK BACK』は応えてくれる。綺麗ごとに対する否。「「止まない雨はない」より先にその傘をくれよ」というフレーズはそのことを象徴している。

だが、そういった攻撃的な感情の発露だけで終わることがないというのが本曲をさらに魅力的にしていると思う。怒りたくて怒っている人はいない。その背景には飢餓感がある。例えば「幸福」、あるいは「富」を得たいという、綺麗ごとではない生々しい感情だ。そして、そのような願いが叶えられないのであればすべてをリセットしてしまいたいという暴力的な心も持ち合わせている。そのことを「楽して生きていたい」の歌詞の直後に「全部滅茶苦茶にしたい」に置くことで表している。この振れ幅が魅力の一つなのだ。

ところで尾崎豊の『十五の夜』や『卒業』などの歌は、具体的な暴力行為が描かれているため嫌悪されているというニュースを目にしたことがある。しかし、だからといって「憤怒」や「不満」という負の感情が表現の世界から無くなったわけではないことに妙な安心感を覚える。いずれにせよ是非一度聞いてみてほしい。綺麗な歌詞よりも心を慰めてくれることをこの歌は教えてくれるのだから。